私たちの準備は整っている

人間の心は、自分をいちばん傷つけるものから、長いこと遠ざかってはいない。わたしたちはみな再び苦悩のもとへと旅をする。その旅から解放されるわずかな人間をのぞいては。

(リリアン・スミス)


子ども時代に受けた傷。それが大人になって自然に消えてくれればどんなに楽だろう。


しかし現実は違う。傷たちは僕らの心の中でつねに不平不満を呟いていて、じわじわと僕らをコントロールしている。


水面下で、姿を現さずに。


やがて僕らは大人になり、知恵をつけ、強くなり、洞察力や観察眼にたけてくる。成熟する、成長する、1人で生きるための術を手に入れる。


そうするとようやく傷が浮上して、やっと僕らの前に姿を現してくれる。


他人の姿を借りて、僕らの受けた傷は可視化される。


実はこの辛い揺り戻しは、僕らに準備が整ったというサインである。


いまこそ傷を癒すためのチャンスだ。


自分の傷は自分で癒せるというメッセージ。


子どもが母親にしがみつくように、僕らの傷は僕らにしがみついてくる。


それを毛嫌いして放り出してしまうのか、優しく頭をなでてあげるのか。それは自分次第だ。


ただ一つ言えるのは、僕らは準備が整っているということだ。昔の傷を癒して、新しい世界に向けて前進すること。


そのために一度、古い傷を抱きしめながら、その時代へと旅をするのだ。自分の傷に導かれて螺旋階段を下る旅。


そして古い傷や苦悩が、癒され整理されたとき、僕らは新しい自分で進むことができるのだ。