いまここからの景色

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私も、「人生経験が少ないから、物語が広がっていかないのでは?」「自分に家庭があって、子育てで苦労した経験があったら、もうちょっと違う風景が見られるのに」って思ったり。いつまでもモラトリアム期みたいな考え方をしてるなと思うことがあります。でも、「今、この場所からしか見えない風景を書けばいいんだ」と思うんです。私の立場から見える風景もあるはずだ、と。西川美和

 

40代に突入してから、人と自分の人生を比べて一喜一憂することが減ってきた。

 

いまの自分をきちんと認めないと、永遠に満足できないからだ。欲望や羨望は大きくなる一方だし。

 

若い頃は今よりもっと他人のことが羨ましかった。でも素直に認めることが嫌で否定する理由をむりやり作っていた。感情の乱降下も激しく、憧れては恨んでの繰り返しだった。

 

カウンセラーとして活動を始めてからは、クライアントさんの悩みを聞くことが引き金になって、自分を内観する頻度が増える。

 

自分のこころと真剣に向かい合うことを繰り返していると、最初は否定から始まる。嫌な部分がたくさん出てきて、その度に憂鬱な気分になるんだけど、やがてはそれにも限界がくる。

 

反面、自分を認めることをひとつづつリストアップしていく作業は楽しい。過去に体験した嬉しいこと、成功したこと、いい気分になったことを書き出していくと、どんどん良い記憶が蘇る。

 

そして行き着く先は、『自分の人生だから人と比べたってしょうがないな、自分がどう思うかだけだよな。』ということだ。

 

いまの自分が見てる景色、体験している出来事。人の数だけそれは存在する。だからこそ自分が楽しく思える時間を積み重ねていくしかないのだ。そこに人のジャッジはいらない。

 

別の景色が見たければ、速やかに移動する。場所も気分も移動させて、新鮮な感動に身をさらす。

 

そのシンプルさは何と健やかなことだろう。

 

永い言い訳 (文春文庫)

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